「今できる分のお祝いを渡すよ」
そのメッセージを見た時、正直、ほんの一瞬だけ期待してしまった。
離婚して6年。
その間、養育費は一度も払わない。
子どもの行事にもほとんど関わらない。
熱を出しても、進学しても、何かを頑張っても、父親として何かしてくれた記憶はほぼない。
それでも私は、心のどこかで思っていた。
もしかしたら今回だけは違うかもしれない。
3人とも卒業という節目だし、せめて形だけでも「おめでとう」と言う気持ちはあるのかもしれない、と。
私が甘かった。
届いたのは、子ども3人それぞれの名前が書かれた封筒。
見た目だけはちゃんとしていた。
だから余計にたちが悪かった。
私はその場で子どもたちに渡さなかった。
なんとなく嫌な予感がして、夜、ひとりで中を確認した。
そして、手が止まった。
3通とも、全部空だった。
お札どころか、小銭すら入っていない。
メモもない。
「卒業おめでとう」の一言もない。
ただ、名前だけ書かれた空の封筒。
その瞬間、怒りで頭が真っ白になるというより、逆にすっと冷えた。
ああ、この人はこういう人だった。
忘れていたわけじゃない。
でも、子どもの卒業にまでこれをやるんだ、と思ったら、心底ぞっとした。
私はすぐにメッセージを送った。
「これが今の気持ちですか?」
すると返事は驚くほど早かった。
「確認してもらえたようでよかったです」
その一文を見た瞬間、逆に迷いが消えた。
入れ忘れでも、うっかりでもない。
勘違いでもない。
わざとだ。
子どもに渡すはずだった封筒を、わざわざ空で寄こして、私が気づくのを待っていた。
そういうことだ。
本当に腹が立った。
でも同時に、ここで感情のまま怒鳴っても意味がないとも思った。
こういう人は、人が怒ったり泣いたりするのを見て、自分が優位に立った気になる。
昔からそうだった。
だから私は、怒るのをやめた。
その代わり、証拠を残した。
やりとりのスクリーンショット。
封筒の写真。
日付。
そして、この6年間、養育費が一度も支払われていない記録。
約束したのに払われなかった履歴も、こちらから連絡して無視された記録も、全部見返して整理した。
私はずっと、「こんな人のために時間を使うのも馬鹿らしい」と思ってきた。
子どもを育てるだけで毎日必死だったし、正直、関わらないで済むならそれが一番だった。
でも今回は違った。
これは私への嫌がらせであると同時に、子どもへの侮辱でもあった。
ちょうどその少し前に、末っ子がぽつんと言った言葉が、ずっと胸に残っていた。
「友だちの家、ちょっと羨ましい」
行事にお父さんが来る家。
卒業したらちゃんとお祝いしてもらえる家。
それを羨ましいと思うのは、子どもとして当たり前だ。
その言葉を聞いた時、私は何も言えなかった。
だからこそ、今回のことを曖昧には終わらせたくなかった。
この人は「父親のふり」をしていい立場じゃない。
子どもの節目にまでこんなことをするなら、もうこちらが線を引くしかない。
私は弁護士に相談して、通知を出してもらった。
空封筒の件だけじゃない。
未払いの養育費も含めて、きちんと文書にした。
すると、それまであれだけ余裕ぶっていた元夫の態度が一気に変わった。
最初は「好きにすれば?」みたいな感じだったくせに、いざ正式な文書が届いた途端、急に連絡が増えた。
「そこまでしなくてもいいだろ」
「冗談みたいなものじゃないか」
「子どものためを思うなら大ごとにするな」
笑ってしまった。
子どものためを思うなら、空の封筒なんて送らない。
6年間、養育費を無視したままにもしていない。
都合が悪くなった時だけ「子どものため」を口にするの、本当に最後まで変わらないなと思った。
私はその連絡に、ほとんど返さなかった。
必要なことは弁護士を通す。
それだけで十分だった。
そして最後に、すべての連絡先をブロックした。
画面が静かになった時、不思議なくらい気持ちが軽くなった。
怒りが消えたわけじゃない。
傷つかなかったわけでもない。
でも、ようやくわかった。
私はこの人に「まともな父親になってほしい」と、まだどこかで期待していたんだと思う。
その期待が、やっと終わった。
子どもたちには言った。
「もう、あの人の“気持ち”なんて待たなくていい」
「お祝いは、空っぽの封筒なんかじゃなくて、ちゃんとあなたたちを見てる人からもらうものだよ」と。
離婚して6年。
この日、やっと本当の意味で終わった気がした。
子どもの節目にまで泥を塗るような人間を、これ以上うちの玄関の前に立たせない。
そう決めたら、ものすごくすっきりした。
あの空の封筒は、たぶん一生忘れない。
でも同時に、私がきっぱり扉を閉めた日の記憶としても、ずっと残ると思う。
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