
――不安でいっぱいだった私たちに届いた、一枚の紙
夜になると、どうしても神経が張りつめてしまう。
理由はひとつ。
まだ生まれて間もない、うちの赤ちゃんだ。
少しでも目を離すと泣く。
抱っこしても泣く。
やっと寝たと思ったら、また泣く。
時計を見ると、深夜2時。
そのたびに、私たち夫婦は顔を見合わせてしまう。
「……大丈夫かな」
言葉に出さなくても、考えていることは同じだった。
――この泣き声、隣の人に迷惑じゃないだろうか。
壁は薄くない。
でも、夜の静けさの中では、赤ちゃんの声は思った以上に響く。
集合住宅に住んでいる以上、それが一番の不安だった。
「もし苦情が来たらどうしよう」
「管理会社から連絡が来たら?」
そんなことを考えながら、何度も頭を下げるような気持ちで、
赤ちゃんをあやしていた。
そんなある日のことだった。
仕事から帰ると、ポストに一枚の紙が入っていた。
差出人の名前はない。
封筒でもなく、折りたたまれた紙一枚。
正直、胸がきゅっと縮んだ。
「……来たかもしれない」
苦情。注意。クレーム。
一瞬で、いろんな言葉が頭をよぎった。
深呼吸して、紙を開く。
そこに書いてあったのは、
想像していた内容とは、まったく違うものだった。
「夜遅くに、赤ちゃんの声が聞こえることがありますが、
まったく気にしないでくださいね。
むしろ、こちらの生活音のほうが
ご迷惑をおかけしていないか心配しています。」
思わず、立ったまま動けなくなった。
続きには、こう書かれていた。
「子育ては大変だと思います。
どうか無理をなさらず、
赤ちゃんのペースで過ごしてください。」
手書きの文字だった。
丁寧で、柔らかくて、
こちらを気遣う言葉ばかり。
読み終えた瞬間、
胸の奥に溜まっていたものが、すっとほどけた気がした。
私たちはずっと、
「迷惑をかけていないか」
そればかりを気にしていた。
でも、向こうは向こうで、
「自分たちの音が迷惑になっていないか」
そう心配してくれていた。
同じ壁を挟んで、
お互いが、お互いを気遣っていた。
それが分かった瞬間、
なんだか涙が出そうになった。
赤ちゃんの泣き声は、
確かに静かじゃない。
でも、それは「わざと」じゃない。
生きている証拠で、
助けを求める、たった一つの手段だ。
頭では分かっていても、
実際に周りの目が気にならなくなることはなかった。
だからこそ、この一枚の紙は、
私たちにとって救いだった。
「大丈夫ですよ」
そう言われた気がした。
それ以来、
赤ちゃんが夜に泣いても、
以前ほど心が追い詰められなくなった。
もちろん、気を遣わなくていいわけじゃない。
でも、
“誰かに責められているかもしれない”
という恐怖は、確実に薄れた。
子育ては、想像以上に孤独だ。
正解が分からないまま、
毎日を必死でこなしていく。
だから、こういう小さな善意が、
胸に深く残る。
派手な出来事じゃない。
ニュースにもならない。
でも、確かに、人の心を支える力があった。
もし、あなたの隣に
夜泣きをする赤ちゃんがいたら、
あなたはどう思いますか?
「うるさい」と感じますか?
それとも、
「大変なんだろうな」と思いますか?
よければ、あなたの気持ちを
コメントで教えてください。
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