「新幹線まで、あと25分だった。」
それなのに――
カーシェアの返却場所には、知らない車が停まっていた。
しかもただの停め方じゃない。
カーシェアの看板の目の前に、車止めまできっちり置いて、
まるで最初から自分の駐車場みたいに堂々と停めている。
ナンバーを見る。
「……わナンバーじゃない。」
普通車だった。
つまり、カーシェアとは無関係の車だ。
時計を見る。
新幹線まで残り20分。
冗談じゃない。
フロントガラスを見ると、
小さな紙が挟まっていた。
電話番号。
私はすぐ電話をかけた。
数回コールのあと、男が出る。
事情を説明すると、
男は面倒くさそうに言った。
「今ちょっと離れてるんで。」
「どれくらいで戻れますか?」
すると男は、
鼻で笑うように言った。
「そんなに急ぐなら電車乗らなきゃいいじゃん。」
……は?
一瞬、言葉が出なかった。
「まあ、ゆっくり戻りますよ。」
完全に、
こちらを舐めている口調だった。
時計を見る。
残り17分。
このまま待っていたら、
本当に新幹線に間に合わない。
私はすぐカーシェア運営に電話した。
事情を説明する。
しかし返ってきた言葉は、
さらに信じられないものだった。
「障害者スペースには停めないでください。
空いている場所を探して停めてください。」
私は一瞬、言葉を失った。
「……満車ですよ?」
「申し訳ありませんが、
利用者様の方で空いている場所をお探しください。」
その瞬間、
頭の中で何かが切り替わった。
私はスマホを見ながら、静かに言った。
「この通話、録音しています。
責任者の方にも共有しますね。」
一瞬、沈黙。
さっきまで事務的だった声が、
明らかに変わった。
「……少々お待ちください。」
数秒後。
「確認いたしました。今回は特例でこちらで処理いたします。」
さっきまで
「自分で探してください」
と言っていたのに。
その時だった。
遠くから、
さっきの車の男が歩いてきた。
スマホを見ながら、
まったく急ぐ様子もない。
私はその場で言った。
「この件、全部録音してます。」
男の顔が、
一瞬止まった。
その時、駐車場の入口から
管理会社の車が入ってきた。
スタッフが状況を確認し、
男の車を見て言った。
「ここ、カーシェア専用スペースですよ。」
男は言い訳を始めた。
「ちょっとだけ停めただけで…」
スタッフは淡々と言った。
「本来ならレッカー対象です。」
その瞬間、
男の顔色が変わった。
さっきまでの余裕は、
完全に消えていた。
「え、いや、今すぐ動かします!」
男は慌てて車に乗り込み、
急いでスペースから出ていった。
数分前の態度とは、
まるで別人だった。
私は写真とナンバーを全部残して、
その場で返却処理をした。
時計を見る。
新幹線まで残り7分。
私は全力で駅へ走った。
ホームに滑り込み、
ドアが閉まる直前に乗り込む。
席に座り、
ようやく息を吐いた。
窓の外を見ながら、
私は思った。
カーシェアは便利だ。
でも――
責任は、いつも利用者だった。
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